週1の王子様
「すとと恋愛」シリーズ第5弾バ~バンッ!森本ゴリラ慎太郎くんのターン!さぁさぁ彼とはどんな出会いでどんな関係なのか~!!!(ガヤうるさい)
-----------------
寒くもなく、暑くもない。ほどよい気温の夏の昼下がり。私はとある海沿いを散歩していた。ここは自宅から少し遠く、電車で1時間ほどの海。今日は日曜日、周辺にはほとんど人がいない。…いるのは、海でサーフィンを楽しむ一人の男の子だけだった。
「やっぱり…カッコイイなぁ…」
週に1回、毎週日曜日、気晴らしにこの海に散歩に来るのが私の趣味でありもはや習慣と化している。そして、そこでそのサーフィン男子を見かけるのも毎回のことだ。名前も知らない彼に、私は恋をした。
彼はこの海でサーフィンをするのが好きなようだ。波が穏やかだろうが荒れていようが、彼は練習に励んでいる。また、遊びに来ている子どもに話しかけられれば一緒に砂遊びをしていたり、地元の人がゴミ拾いをしていれば一緒に参加してゴミ拾いをする。彼は優しい人だ。話さなくても分かる。そして彼はよく笑う。曇った空さえも晴れにするような、屈託もないキラキラした笑顔。私は、知らぬ間にこんなに彼に夢中になってしまっていた。
「…話してみたいなぁ…」
叶わない願いを誰にも聞こえない声でつぶやき、私はいつものように海の見える防波堤に腰掛け、音楽を聴き始めた。
「……い……おーい…」
どこからか、誰かを呼ぶ人の声がした。音楽に夢中になっていて気づかなかった。周りには人がいない。私を呼んでいるのだろうか…?イヤホンを外し、辺りを見渡してみる。すると…
「おーい!そこの女の子ー!」
「!?」
サーフィン男子が、ボードを抱えて私に向かって手をブンブン振りながら歩いてくるのだ。どうして?何で?何で私に?突然のことにパニックになってしまって返事が出来ない。
「君さ、いっつもこの海来てるよね?海好き?」
「え、あ…はい…」
「一緒だ!いいよねこの海!静かで落ち着くしさ~♪」
目の前には、いつも遠くで見ていたあの笑顔があった。心臓の音、聞こえてしまわないだろうか。
「俺、森本慎太郎。こう見えても19歳だからね!気軽に慎太郎って呼んで!君は?」
思っていたとおり、イヤミな感じの全くない話し方、優しい声。鼓動は落ち着くことを知らない。
「あ、えっと…◯◯、です…同い年…」
「〇〇ね、よろしく!同い年なんだね?毎週見かけるから、1回話しかけてみたかったんだよねー」
「しゅ、趣味で…来てて、落ち着くから…気晴らしに…」
初めて話したのに、初めてじゃないみたい。それは、彼の人を惹きつけるような雰囲気のおかげだろうか?どんどんと彼の世界に引き込まれていくような、そんな気がした。
「来週も、会える?俺、もう帰らなきゃ」
「あっ、う、うん!毎週日曜日は来てるから…」
「まじ?じゃあまた来週な!〇〇!」
そう言って、慎太郎は足早に帰っていった。
「…慎太郎、くん…」
名前が知れるなんて思いもしなかった。話せるとさえ思っていなかったのだから。今日は、なんて幸せな日曜日なんだろう。
「でさー、溺れかけちゃったわけよ!」
「慎太郎その話何回目?(笑)」
初めて話したあの日から1ヶ月あまりが過ぎ、私は慎太郎を呼び捨てに出来るほど距離を縮めていた。
「〇〇もサーフィンすればいいのに」
「無理無理!絶対できない!」
「ちぇっ…〇〇の水着姿見られると思ったのに…」
「そこかよ(笑)」
雑談もスムーズに出来ている。今でも夢のようだと思っている。慎太郎も、こんなに仲良くなれるなんて予想してなかったんだろうな…なんて思っていると
「でもさー、〇〇とこんなに仲良くなれるなんて予想してなかったよ俺!」
慎太郎は心を読めるのか?たった今私がまさに思っていたことを口にする。慎太郎といると、心臓がうるさくて仕方が無い。心拍数が普段の倍くらいになるんじゃないかと思う。
「運命の出会い!的な?(笑)」
"運命の出会い"その言葉が、私を動かした。もう、どうにでもなれ。
「……私、慎太郎が、すきだよ」
言ってしまった。だってしょうがないじゃないか、運命だなんて言われたら、誰でも舞い上がってしまうでしょう?
「…ありがとう」
ありがとう、嬉しい言葉なのに、慎太郎の顔が曇っている。
「慎太郎…?」
「本当に、運命だったらよかったのにな」
そう言うと慎太郎は、腰掛けていた防波堤から降りた。そして、私の方を向くこと無く背を向けたまま話し始めた。
「俺さ、引っ越すんだよね。ここじゃないところに。」
違う意味で、鼓動が早まった。慎太郎が引っ越す。ここではないどこかへ。それは、もう会えないということを示唆していた。せっかく会えたのに。せっかく仲良くなれたのに。本当に運命だと、そう思ったのに。
「…慎」
「ありがとう、〇〇。俺、〇〇と仲良くなれて、…好きになってくれて、嬉しかった。この海に感謝してる。だから、これからもこの海にきてやってよ」
もう会えないと言っているような、永遠の終わりを伝えられているような、悲しい気持ちになった。「行かないで」そう言いたかった。でも言えなかった。…そんなことを言わせないような、切ない背中で慎太郎が去っていってしまったから。
私の恋は、終わってしまったのだ。
キーンコーンカーンコーン…
私が失恋しようが何をしようが、日常は繰り返されるわけで。学校も始まるわけで。モヤモヤが晴れない憂鬱な気分のまま私は教室に入って席についた。今日も隣の席の樹は騒ぎっぱなし。それも変わらない日常。
「なー〇〇ー、いいニュースと悪いニュース、どっち先に聞きたい!?」
「どっちもどうでもいい」
「じゃあ悪い方からな」
「聞いてる?」
「ジャーン!2限の数学の課題が真っ白でーす!俺は今日当てられるのに何も書いていません!」
私が落ち込んでいることに気付かないのは樹が馬鹿だからなのか脳天気だからなのか、課題が終わっていないことに焦っているからか。あとでノートをせがまれるのだろう。お昼ご飯は奢ってもらおう。
「じゃあいいニュース!」
「どうせ朝ご飯が豪華だったとか今日の部活が潰れたとかそんなんでしょ」
「ブッブー。今日は俺らのクラスに転校生がやってきます!しかも男子!これは友だちになるしかない!」
一瞬、脳裏に慎太郎の顔が浮かんだ。そして一瞬でその想像を拭い取った。そんなわけない、そう言い聞かせた。そこへ、担任の松村先生が入ってきた。一人の男の子と一緒に。
「えー、知っているやつもいるとは思うが、今日から転校生がこのクラスに来ることになりました。…森本、自己紹介して」
「えー、森本慎太郎です!趣味はサーフィンです!今まで呼ばれてたあだ名はゴリラです!あ、でも呼ばないでね!フリじゃないよ!宜しく!」
"運命"もうあの時以来信じたくなかった言葉。避けていた言葉。あの時以来、会えないと思っていた人。私の、運命の人。
「森本は〇〇の前の席が空いてるな、おい〇〇手ぇあげろー…森本?」
教室がざわつく。無理もない、初対面であるはずのクラスメイトの元へ、転校生が歩み寄っていくのだから。
「え、〇〇知り合いなの?」
知り合い、だなんて言葉で片付けられないよ樹、彼は。彼は…
「よろしくね、運命の人?」
-----------------
まぁこんな少女漫画か!って展開はないよね。でも書いちゃうよね。書くのは自由!妄想は自由!妄想 is freedom~